高天寺 橋本院 Takamadera Hashimotoin Temple
- 寺
菩提寺は、奈良時代の高僧行基が創建したお寺で、かつて30余りもの子院を構えたといわれる「菩提院」の跡地にあります。当時は「伏見寺千軒」と称され、弘法大師が参籠祈願するなど、勅願所・修験道の道場として広大な寺域を誇る大寺院でした。しかし、長い時を経るなかで戦火に見舞われたり、明治政府による廃仏毀釈の影響を受けるなどして荒廃し、戦後は観音堂と仁王門などを残すのみとなりました。お寺の存続自体が危ぶまれたこともありましたが、篤信の人々に支持され幾度となく再建。1971年(昭和46年)から十数年間にわたって行われた「昭和の大修理」では、本堂新築・庫裡移築・仁王像修造・仁王門の移築再建など大規模な工事が行われ、諸願成就・諸人快楽を願う寺として復興しました。
波乱の歴史の中、子院それぞれに納められていた仏像や持ち物の多くは失われてしまいましたが、難を逃れ、人々に守られてきた仏像は、菩提寺本尊の十一面観音菩薩と共に本堂・大師堂に納められました。中には平安時代の高僧覚鑁(かくばん)作の不動明王像や、聖徳太子の作といわれる毘沙門天像などもあり、今も大切に保管されています。
また、大師堂に安置された法起菩薩仏頭は、金剛山頂にある転法輪寺から廃仏毀釈運動を受けて密かに移されてきたものです。修験道の開祖といわれる役小角が金剛山で修業した際に感得したという法起菩薩は、この周辺地域でしか見られない珍しい姿をしており、天をつく怒髪に、肉眼(人間の眼)・天眼(天人の眼)・慧眼(声聞、縁覚の眼)・法眼(菩薩の眼)、そのすべてを兼ね備えた仏眼(仏の眼)といわれる鋭い五眼が光るお顔には、言葉で表しがたい迫力があります。恐ろしい憤怒の表情でありながら、訪れる人の心を惹きつけてやまない、不思議な魅力を帯びた仏さまです。
現在檀家は4軒であり、主にお寺を管理しているのは、総代の前川さん夫妻。日常的に境内を掃き清め、訪れる人に菩提寺の由緒を語り伝えています。前川家は昭和の大修理で移設先の土地を寄進した他、仏像を修理するなど、無住寺となった菩提寺を長く支えてきました。「家族や地域の人たちが守ってきたものだから、この隠れ寺の魅力をこれからも多くの人に感じてもらえるよう、自分たちもできるだけのことはしたい」とお二人は話します。
境内に置かれたベンチに腰を下ろし、周囲に目をやると、菩提寺を守り伝えてきた人々と、悠久の時を経て地域を見守り続けてきた仏さまの温かな絆が感じられるような、穏やかな時間が流れます。大峯の山々や大和三山、音羽三山が一望でき、春には桜が境内を彩る美しい山里の古刹へ、心静かなひとときを味わいに、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。