御所まちの和菓子屋「虎屋菓舗」にて。祖父母を師匠に、技と心を受け継いでいく。

  • 事業者

文=北村雄太郎(虎屋菓舗)

御所市本町とその周辺地域。

ここはかつて商業の中心だったらしく、碁盤目状になっている通りには、大きな商家や江戸時代からの建造物も残っており、歴史的にも貴重な土地である。静寂の中、情緒溢れる町中を散策していると、まるでタイムスリップでもしたかのような感覚さえ覚える。

そんな町が今、転換期を迎えつつある。

御所市内にあった銭湯は一度すべて廃業してしまったそうだが、昨年「御所宝湯」という銭湯が、当時の浴槽を活かしつつ、フィンランド式サウナなど最新設備を新設して開業。

また、大正7年創業のモリソン万年筆の本店だった古民家がリノベーションを経て、上質な宿泊施設「RITA 御所まち」となり、さらにタバコ店だった古民家も御所ならではの食材を活かした料理を提供する「洋食屋 ケムリ」へと姿を変えた。

他にもこういったリノベーションが、町のあちこちで行われている。「和」と「洋」、「過去」と「現代」が融合し、懐かしさや趣のある街並みを残しつつ、魅力溢れる町へと生まれ変わろうとしているのだ。この流れがさらに加速し、新たな出会いや繋がりが生まれ、より多くの人々に町の魅力を感じてほしいと切に願っている。

そんな御所市本町にある「虎屋菓舗(とらやかほ)」。創業者は私の祖父で、創業60年余り、家族で営んできた小さな和菓子屋である。私はここで約10年、見習いとして修行の日々を過ごしている。

幼い頃から、店にはよく出入りをしていた。「後継者問題」というのを耳にするが、私の場合、気がつけば「後を継ぐんだ」という思いを自然ともっていた。小学校の卒業文集にも、将来の夢として「後継ぎになる」と書いたのを今でもよく覚えている。こんな風に思ったのは、やはり祖父母の偉大さを子ども心に感じていたのだろう。

昨今、スイーツ市場は拡大しており、機械で大量生産された和菓子や洋菓子がコンビニやスーパーに陳列されている。そんななか、祖父は昔ながらの製法にこだわり、今でも一つ一つ手作りしている。祖父の手から生み出され、店頭に並ぶ様々な和菓子たち。それを嬉しそうに笑顔で買っていくお客様を見ていて、多くの人々を笑顔にできる祖父のような職人になりたいと思った。

私は高校卒業後、一旦は別の道に進んだのだが紆余曲折あり、20代後半から店で働くこととなった。後を継ぐための一歩を踏み出したのだ。

前述の通り、私は幼少期より製造の手順や包餡(ほうあん)の手の動きなど祖父の仕事を見てきている。正直な話、これだけ長く見てきたのだから、最初からうまくいかなくとも、それなりにはできるのではないかと思っていた。が、甘かった。見るのとやるのとでは大違いだ。包餡にしても、生地が均等に広がらなかったり、破れたり。私がなんとか1個の包餡を終える頃に、祖父は10個以上包餡していた。

また、商品によっては熱いうちに仕上げないといけないものがある。祖父は平然とやってのけるが、私には熱すぎて触ることすらままならない。それでも熱さに耐えながら仕事を終えると、手のひらが真っ赤になっていた。

そういえば、祖父の手は大きく、ゴツゴツしている。熱さへの慣れももちろんあるだろうが、長年仕事をしていくなかで、手の皮が厚くなっているのだろう。

         なんて大きな手、なんて大きな背中なんだ……。

改めて尊敬や憧れの念を抱いた瞬間だった。

祖父の年齢は90歳手前だが、いまだに現役で仕事を続けているタフな人だ。私も仕事を始めて10年余りがたった今、多くの商品を作らせてもらっているが、職人としてはまだまだ未熟。祖父の背中が果てしなく遠くに感じる。

それでも、何年、何十年かかるかわからないが、いつか追いつき、追い越すんだという想いを胸に日々頑張っている。

また、祖母もすごい人だ。特筆すべきは記憶力とコミュニケーション能力の高さ。自店はコンビニやスーパーのようにレジに並ぶのではなく、購入するものが決まった人から順次お会計をしていくスタイルで、昔ながらの八百屋さんなどをイメージするとわかりやすいかもしれない。

祖母は複数のお客様を相手に日常会話をしながら、それぞれのお客様の用途に合った商品をお勧めしつつ、お会計までこなしていく。さらっと日常会話と書いたが、その場限りの会話ではなく、次にそのお客様が来店した際は、前回の会話の内容をもとに、さらに話を膨らませていく。

祖母の頭の中には、お客様の顔や名前はもちろん、会話から知り得た情報がさながら顧客名簿のように蓄積されているのだろう。私も記憶力には自信がある方だが、祖母の記憶力には本当に驚かされる。そんなお客様一人ひとりに合わせた親しみのある接客は、まさに販売員の鏡というべき姿だと思う。

実際、お客様の中には「祖母に会いに来た」「会話しに来た」という方も少なくなく、畑で採れた野菜を持ってきてくださる方もいらっしゃる。

昨今、人付き合い、特にご近所付き合いが希薄になっているなかで、人と人との繋がりや温もりを感じる関係を築けるのも、祖母のこれまでの計り知れない努力と人柄が成せる業なのだろう。

私は本当に恵まれている。製造は祖父、接客は祖母とそれぞれこれだけすごい人を手本としているのだから。祖父母がここまで築き上げたお店を、御所市本町の魅力の一角を担うお店としてこれから先も守っていくこと。それが私の使命だと思っている。

ごせまちを訪れた際にはぜひ、祖父が作ったお菓子の中から、祖母と相談しながら、あなたのお気に入りを見つけてもらえたらうれしい。

Kitamura Yutaro

寄稿者の写真

1985年生まれ、橿原市出身。和菓子屋「虎屋菓舗」の三代目。幼少期からの夢であった和菓子職人として、祖父・父の昔ながらの手作り製法の技術と想いを受け継ぎ、より多くの人に喜ばれる和菓子のおいしさを追求するため日々、奮闘中。