「文化や考え方が全く違う者同士である」という前提に立ち、知ろうと努め、多文化理解を深めたい。

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文=太田安紀子(カルマ・フォレスト・ケア)

御所市に移住して15年になります。御所市は都会にも近く、自然もたくさんあり、程よい田舎で私はとても気に入っています。

田舎なので地域の行事などがたくさんあり、役が回ってくることもありますが、地域の方々と交流できるよい機会になっています。子どもたちは少人数制の小中一貫校で学んでおり、小学校1年生から中学校3年生まで長く一緒に過ごすので、とても仲が良く、先生方からも手厚いサポートを受けることができます。

私は大阪で生まれ、奈良で育ちました。海外が好きで、多文化共生について学び、博物館学芸員の資格も取得しました。大学を卒業してからは多職種の仕事を経験しましたが、海外と繋がる仕事がしたくてNGOに関わるようになりました。

そのNGOで出会ったネパール人の主人と結婚し、関東など、日本のいろいろな土地で暮らしましたが、御所市に一番長く住んでいます。

市内にある温泉施設「かもきみの湯」は私たち家族のお気に入りの場所です。主人は林業やトレッキングガイドなどの仕事で疲れた体をほぐしに、子どもたちは温泉と漫画コーナーを楽しみに、みんなでよく行きます。

主人はシェルパという山岳民族の出身です。元々チベット高原に住んでいた人々がヒマラヤを越え、ネパールの山岳地帯に移住したようです。

シェルパの語源は、「シャー」と「パ」という言葉で、「シャー」はチベット語で東、「パ」は人々で、「東の人々」という意味です。ネパールはほとんどがヒンズー教徒ですが、シェルパ族は主にチベット仏教を信仰しています。ネパールにはいろいろな民族が住んでいますが、紛争はなく、比較的みな穏やかに暮らしています。

私たちは国際結婚なので、生活の中でお互いの文化の違いによく直面します。例えば、現在の日本の新年は1月1日に迎えますが、ネパールのチベット仏教徒の新年は旧正月で、今年は2月10日でした。ちなみに、ヒンズー教徒の新年は10月頃で、ひと月ほどかけてお祝いをします。

ある日、玄関に空の容器が置いてあり、主人の機嫌がとても悪くなってしまったことがありました。原因を尋ねると、「空の容器は財産がなくなっている状態を表すので、置いてはいけない」とのことでした。他にもいろいろとありますが、私は相手の文化をよく知りたい方と思う方なので、その違いを楽しんでいます。

大学では「多文化理解」というテーマで文化人類学を学んでいました。これは海外の民族の文化や風習についてよく知ろうとする学問です。現代は多文化共生の時代ですが、日本人同士でも、相手を理解するのは本当に難しいことですが、初めから「文化や考え方が全く違う者同士である」という前提に立ち、知ろうと努めることで、相手のことが理解できるようになるのではないかと思います。

我が家の3人の子どもたちには、ぜひ海外に留学をしてほしいと思っています。私も大学生の頃、インドに旅行に行き、アメリカに留学した経験を通して多文化理解が深まりました。また、それによって日本の良さにも気づくことができました。そのような経験を子どもたちにもしてほしいです。

ネパールで特に感じたのは、人々が温かいということでした。自然の中で助け合い、たくましく生活をする人々と接することで、現代では感じづらくなっている、心の奥にある「自然と人々を愛する気持ち」を強く思い出すことができました。

日本人とネパール人の間に生まれた子どもたちには、両方の国の良い部分を感じてもらいたいと思っています。そして、家族でネパールを訪れたのはもう8年も前になりますが、コロナ禍があけたので、また家族でネパールに行きたいと思っています。

将来の夢は、この御所市で、主人と小さなカフェを開くことです。そのカフェがシェルパ族の文化を知っていただける、国際交流の窓口となればうれしいです。

Ota Akiko

寄稿者の写真

大阪生まれ奈良育ち。海外が好きで、大学では文化人類学を専攻。多文化共生について学び、博物館学芸員資格も取得。大学卒業後は、多職種の仕事を経験。海外と繋がる仕事をするために所属したNGOで、ヒマラヤ・シェルパ族出身のカルマ・ギャルゼン・シェルパと出会い、結婚。関東などでの生活を経て、2009年に御所市へ移住。現在は夫の会社「カルマ・フォレスト・ケア」の広報などを手伝いながら、3人の子育てに奮闘する日々を送る。