何もないけど全部ある「古墳カフェMidoro」で、心を込めて重ね煮料理を届けていく。
- 事業者
文=後藤敏子(古墳カフェ Midoro)
私は今、6世紀中頃に造られた水泥(みどろ)古墳がある実家の納屋を改装してカフェをしています。
「古墳のある家」という少し珍しい家に生まれた私にとって、「古墳はお墓だから怖い」というマイナスなイメージは全くなく、夏はクーラー代わりに古墳の中で涼んだり、天然の冷蔵庫としてスイカを冷やしたり、古墳は生活の中に当たり前にある身近な存在でした。
信仰心の厚い祖父の影響で、仏壇の前に座り一緒にお経を唱える機会も多く、ご先祖様はもちろん、「山の神様」「火の神様」「水の神様」「古墳の神様」を丁寧にお祭りし、目には見えない大いなるものに感謝することの大切さが、暮らしの中にいつもありました。
自然が豊かな土地なので、四季の移り変わりを庭に咲く草花や畑の野菜、果物から感じ取ることができ、母の育てた旬の野菜とご近所さんが手塩に掛けて育ててくれたお米が毎日食卓に並び、母の作る梅干しと茄子のぬか漬けが大好きな子どもでした。
裏山の竹林ではやわらかで灰汁の少ない新鮮な筍がたくさん採れ、柿、苺、スイカ、金柑、栗、キウイなど、季節の食材がすぐ近くに豊富に実っていて、「本当においしいもの」に恵まれた環境で成長させてもらったことは、私の原点になっています。
しかし高校・大学と進学するなかで、都会の便利さや華やかさに触れ、新しい価値観の友人たちに出会うと、御所の土地を「ここは不便で、何もない場所」と感じ、もっと外に出てたくさんの経験をしてみたいと、外に何かを求めるようになっていきました。
企業に勤めた後、夢だった保育士の資格を取り、企業内託児所や家庭的保育所などでたくさんの素晴らしい経験をさせていただきました。結婚して、2人の息子を授かると、夫の仕事でスペインに2年間滞在することになり、あらゆる面で日本の素晴らしさを再確認する機会もいただきました。
日本に帰国し、子育てをするなかで、息子が体調を崩しがちになりました。
それから、病院やお薬に頼りすぎず、自然なもので調えてあげたい、おばあちゃんの知恵袋のように、昔ながらの方法で副作用がなく、家庭にある身近な食べ物で家族を守れるようになりたいと、自然療法を学び始めました。母の梅干しや旬の野菜たちがどれだけ有り難いものであるかを、そのとき改めて知ることになりました。
その中でも「重ね煮」(陰陽調和料理)に出会ったことが、私の一番の学びでした。食材を陰と陽の性質で捉え、宇宙の法則をお鍋の中に取り入れ重ねて調和させる調理法は、シンプルで簡単なのにおいしくて、息子の体調を調え、同じものを食べる私や夫の体調まで変化させていきました。
食べたもので身体はできている。
そのことを改めて体感し、調味料や食材選びにも気を遣い、健康への関心が高まってきた頃、仲の良かった友人を癌で亡くすという体験をしました。
自分の家族が健康ならいい。
変わったことをしていると思われたくない。
その頃の私は消極的で自信がなく、仲の良い友人にすら「重ね煮」や健康に関する情報を伝えられずにいたことをとても後悔し、また、命のはかなさ、生きることの意味を深く考えました。
この友人の死をきっかけにして、少しずつ、周りにいる大切な友人たちに向けて重ね煮を食べてもらう会を開き、体調不良で困っている友人がいたら自分の知っていることや体験を話すことを始めました。「おいしかったよ」「体調が良くなったよ」「心が温まったよ」と、喜んでくれる友人たちの笑顔を見るたびに私の心は温まり、幸せが溢れていきました。
その頃から「みんなに喜んでもらえる、安心安全な食事を提供するカフェをいつかオープンしたい」と夢見るようになりました。そのことを口に出してみると、周りのみんなはとても喜んでくれて、「応援するよ!」と背中を押してくれました。
改めて学びを深めようと「重ね煮」の伝道師である梅崎和子先生に師事し、師範免許を取得してお料理教室を始めました。日替わり店主のお店でランチの提供、お弁当の販売など「夢」に繋がるチャンスが訪れたら、勇気を出してチャレンジしました。
無農薬のお米や野菜を作っている友人ができ、農作業を体験させてもらい、自然農法を学んだり、野草教室で野草の活用法を学んだりするうちに、カフェをオープンするなら生まれ育った御所の地にしたいという思いがだんだん強くなっていきました。それは、一度は「ここには何もない」と思った御所に、「実は全部あった」とわかったからでした。
外にばかり何かがあると探し求めていたけれど、気がつけば、自分で野菜を育てるための畑もふかふかの土も、カフェを建てる土地も自然豊かな景色も、四季を感じ取れる草花も、人を元気にする旬の野菜や果物も、自然療法に活用できる野草も、全部一番近くにあったことに気づき、感謝が溢れました。
カフェの一番の応援団は、両親でした。初めは私のことを心配していた両親でしたが、「きっと父と母が喜んでくれるカフェになる」と、不思議と感じていました。
この土地で生まれ、この土地でとれるお米や野菜を食べて大きくなった私はこの場所が大好きだし、いつも丁寧に庭の手入れをして家を守り、自然と共存し、大いなるものに感謝しながら生活してきた祖父母や両親を見て育ったからこそ、微力ながらも、私なりのやり方でこの場所を守っていきたい。
そう伝えると、両親も「応援するよ」と言ってくれました。
カフェのオープンに際して、一緒に作り上げてくれた友人たちにも感謝の気持ちでいっぱいです。私の思いを形にしてくだった萩下工務店の吉田さんをはじめ、関わってくださった皆様、支えてくれた家族にも感謝しています。
近隣の地域の皆様にも喜んでもらい、地域を元気にできたらいいな。
お客様が健康になり笑顔になってくれたらいいな。
それぞれの得意を持ち寄り、発揮できる場所になればいいな。
健康や生活に役立つ情報の発信場所になればいいな。
気持ちが休まる癒しの場所になればいいな。
御所の魅力を伝えられたらいいな。
古墳のロマンを感じてもらえたらいいな。
四季の草花を楽しんでもらえたらいいな。
両親が喜んでくれたらいいな。
一緒に働いてくれる友人が幸せで、私も幸せでいたいな。
そんなたくさんの思いを込めて、昨年11月に「古墳カフェMidoro」をオープンさせていただきました。
訪れてくださるお客様も増え、古墳見学の案内役を引き受けてくれる母に対して「丁寧な説明と案内をありがとうございました。お母さまによろしく」と、感謝の気持ちを伝えていただくことも多く、それは私にとってもうれしい瞬間となっています。
お料理には、旬の食材、地産のお米を使い、手作りの発酵調味料や天然醸造の調味料を用いて「重ね煮」で作ったものを心を込めて提供しております。
「やさしい味で全部おいしかった」「目でも楽しめる」「定期的に食べたくなる」などのお料理に対するご感想や、「木の香りがして落ち着く」「ゆっくりできる」「古墳に驚いた」「歴史が感じられた」と場所へのご感想もいただき、お客様との会話もとてもうれしく、有り難い日々です。
御所にお越しの際は、何もないけど、全部ある「古墳カフェ Midoro」に、ぜひお立ち寄りください。心を込めた料理と共に、ご来店をお待ちしております。
後藤 敏子 Goto Toshiko
「古墳カフェMidoro」オーナー。御所市で生まれ、自然いっぱいの中で育つ。保育士資格を取得し、保育士として15年働く。陰陽調和料理「重ね煮」師範免許を取得し、「とっ子のなないろごはん料理教室」を開催。2022年11月に「古墳カフェMidoro」をオープンし、心と身体が喜ぶ重ね煮ごはんを提供中。