生まれ育った名柄の旧郵便局舎で。食とつながりを守っていく。

  • 事業者

文=高村るり子(テガミカフェ)

金剛山、葛城山のふもとに位置する御所市で生まれ育ち、2人の娘の子育てを経て、家族で今も暮らしています。

実家は兼業農家で、子どもの頃は田んぼや畑で走り回って育ちました。

春にはつくし取りをしたり、レンゲ畑で遊んだり、初夏には田んぼでおたまじゃくしの卵を持ち帰り、家で孵化を観察したり。目を閉じれば、秋の稲穂が実って黄金色に染まった棚田と稲刈りの風景が、今もその匂いとともによみがえってきます。そんな環境で子育てができたことは、とても恵まれたことでした。

私は現在、地元名柄にある飲食店「Tegami café」の責任者として働いています。

この仕事を始めるきっかけになったのは、旧名柄郵便局が町家の芸術祭「はならぁと」の開催会場になったことでした。当時は次女がまだ小学生で、PTAの役員をしていたのですが、「来られた方に、喫茶でおもてなしをしてほしい」と頼まれ、パンやお菓子づくりが得意でしたので、引き受けることにしました。

「はならぁと」には、地元名柄に愛着をもっている人たちが続々と名乗りをあげ、参加しました。来場してくださった方々に喜んでいただけて、私自身もとても楽しく、心に残るイベントになりました。

その後、会場となった郵便局舎を改修するプロジェクトに参加し、「巣立った子どもたちが帰って来られる、地域住民の心の拠り所となる場所をみんなで創っていきたい」という思いを胸に、地域の仲間たちと「吐田郷(はんだごう)地域ネット」という団体を立ち上げ、活動を始めました。

そして、私がカフェ部分を担当することに。料理やお菓子作りは好きなものの、お店の経営なんてしたことがありません。最初はプレッシャーもありましたが、「好きなことが生かせるならやってみよう」と挑戦し、今に至ります。

カフェでは月替わりのランチを提供しています。

食材は地元の農家さんが丁寧に作られた野菜や果物を中心に購入し、吐田米、醤油、酒、豆腐などは地元で代々作られている物を使用。できる限り無添加で手作りにこだわっています。

また、旬の採れたて野菜の味を生かした、やさしい味付けを心掛けています。素材や調味料が良質だと、少量の味付けでも十分おいしくなるからです。

私はお料理は、見た目や形よりも何より、毎日作って食べて、おいしいなぁと感じることが、一番大事だと考えています。そして、子どもと一緒に畑に行って野菜を収穫し、献立を考え、料理をしたり、おやつを作ったりすることがとても大切だと思っています。

時々、お客さまから作り方を聞かれると、ついつい「ガッツポーズ」が出ます。今晩のおかずの一品になるのかなぁと、想像するとうれしいのです。カフェでのごはんがお客さまにとって、日々調理する楽しさにつながったり、旬の食材や新たなアイデアのヒントになればいいなぁと思います。

お店には、ご近所さんはもちろん、遠方からもたくさんの方が来てくださいます。なかには、お孫さんの帰省に合わせて親子3世代でご来店いただくなんてことも。

ご近所の奥さんが来店されたとき、別で来店されていたお客様と知り合いだったようで、「最近、どうしてるかなぁ? と思っててん。ここで会えてよかったわー」と、思いがけない再会を喜んでいらっしゃったこともありました。お店がご近所さん同士の出会いの場となっていることは、とてもうれしいことです。

葛城古道沿いという立地にあるため、多くのハイカーさんが通られますが、「以前は休憩する場所がなかったので、ここができてよかったです」と言って利用してくださるのも、いつもうれしく思っています。

カフェでは食事を提供するだけでなく、いろんな人たちの交流を生み、名柄のまちを知ってもらう機会をつくるために、定期的に「なからむすび」というワークショップイベントを開催しています。これまでに、「みそ作り」や「醤油作り」「こんにゃく作り」「柿の葉すし作リ」「新米パーティー」などを通じて、地域の人に教わった“暮らしの知恵”を多くの人と共有してきました。

先日も「みそ作り」のワークショップを開催し、名柄にお嫁に来てから50年、みそを作り続けてこられた地元の主婦を先生に迎えたのですが、毎年参加してくださる方、初めての方、お孫さんと一緒に、ご夫婦で、など様々な方が参加してくださっています。

続けているうちに、「みそ作りに使う大豆を育てました」という方が出てきたり、つくったみそをお裾分けした先のお家の子どもさんが「このみそおいしい! どこで買ったん?」と言ったらしいというエピソードを聞いたり。無添加で手作りのおいしさが、子どもさんに伝わったことがとてもうれしく、「みそ作り」のワークショップは今年で5回目になりますが、暮らしの中に少しずつ広がっているのを実感しています。  

また、昨年で8回目の開催となった「はがきの名文コンクール」は、一枚のはがきを通じて、全国から御所市名柄を知ってもらうイベントとなっています。

御所にある葛城一言主神社になぞらえて、自分のこと、家族のこと、未来のこと、過去のことなど、叶えてほしい一言の願いをはがきに書いて送ってもらうのです。自分の手で、自分の文字で綴る。それだけで願いに少し近づけるような気がします。表彰式には受賞者の方が全国よりお越しになります。

このイベントをきっかけに、宛先となる当郵便名柄館や葛城一言主神社を一目見ようと訪れる方も増えてきています。

もともと郵便局は地域の人が集まる場所でした。

そんな、この地で暮らした人々の、いろんな思いをつないできたこの場所で、これからも食やイベントを通じ、人と人、地域がつながる場所としてあり続けていく。そんな未来を願いながら、これからも楽しんで暮らしていきたいと思っています。

(写真協力:御所ガール)

Takamura Ruriko

寄稿者の写真

御所市生まれ。Tegami Cafe 責任者。子どもの頃からお菓子やパン作りが好きで、人に頼まれることが多々あった。数々の出会いに恵まれ、2015年に地域の仲間とともに「郵便名柄館 Tegami Cafe」をオープン。料理を通じて、作って食べることの楽しさを伝えている。