生来の天邪鬼が片上醤油を継いでたどり着いた、応援と頑張りが循環するものづくり。

文=左手充子(藁書家・紫稲)
ちょっとそのあたりで冬が去るのを待っている、肌寒い春を感じるのが好き。雷ゴロゴロの夕立ちの後に現れた、空気を息吹く夏の夕暮れが好き。まるくてとろけるような、ほんのり冷たい秋の風が好き。
稲刈りが終わり、田んぼを燃やす煙の匂いで冬支度をしないとなぁ〜と思う晩秋が好き。しとしとと降る雪がどんどん積もって、あたり一面が銀世界に変わりゆくのをあたたかい部屋の中から眺めるのが好き。
御所で生まれ育ち、少し大阪で暮らした後、御所へ戻りました。御所市と同い年の、私の好きがいっぱい詰まった御所暮らしのストーリーを、ここに綴ってみます。
幼馴染と田舎遊びを満喫して過ごした幼少期。学校から帰ると、ランドセルを放り投げ、一目散に駆け出しました。
お寺の境内へ行くといつも誰かがいて、どろんこ遊びやら野花摘みやらお母さんごっこやら(今の子たちは何ごっこというんだろう?)、いろんな遊びで盛り上がったり盛り下がったり。ケンカも日常茶飯事で、夏は真っ黒に日焼けして、毎日日暮れまで遊び、勉強をした記憶はほとんどありません。
勉強苦手な私ですが、なぜか英語だけが他の科目より少しできたので、勝手に「私は英語ができる」と思い込み、大学は米英語科へ進学! この頃から、将来の夢やなりたい私像みたいなものをイメージし始めました。
夢見たのは、結婚して妻になり、母になり、プラス自分自身を生きる暮らしでした。でも、その前に社会人として世の一員にもなりたい!と欲張りな私は(今では当たり前なのかもしれませんね)都会の華やかさに憧れ、大阪・中之島のロイヤルホテル(現リーガロイヤルホテル)に就職。フロント課に配属され、英語を使っての仕事にやりがいを感じ、がんばっている自分に酔っていました。
母の病気と結婚を機に退職し、自宅で、英語を活かしてできるECCジュニアの講師を始めました。ECCスタッフによる研修・生徒募集・レッスンはどれも楽しく、未来の国際人育成に携われている喜びに満たされた仕事でした。
レッスン中の生徒の様子を見て、笑って目が輝いていたらOK! あくびが出るとブー! 子どもたちの態度が私のレッスンのよし悪しを決めるバロメーターでした。そんな中で、結婚、出産(二人の息子)を経験し、夫の妻、子どもたちの母という附属な私も私の一部として満たされていました。
我が子が幼少期になる頃から、ECCの契約先の幼稚園や保育所にも派遣講師として出向き、園児たちと共に英語で歌ったり踊ったりして過ごす日々。ECCジュニアでは、生徒たちのために「スピーチコンテスト」という舞台が用意されているのですが、挑戦する愛生徒と共に練習に励みました。入賞させてあげたい想いが年々強くなり、ヒートアップ! そして3名が金賞をゲットしたのは、本当にいい思い出です。
年齢も60歳を超えた頃、そろそろ次の世代へのバントンタッチの時期かとリタイヤを決意。 ECCジュニア講師という自分にピリオドを打った頃には、36年という月日が流れていました。
ECCの活動とは別に、やってきたことがもう一つ。2016年ごろ、築100年近い我が家をリノベーションすると、お友達から「癒される」「お店をしたら?」といった声をいただくようになって、私の未来予想図にはまったく予定がなかったのですが、「OKAERI」と称し、みんなが集える場として開放することにしました。
ジャンルを問わず、ワークショップや手作り、体を動かすことなどをして、多くの人が「ただいまぁ〜」と言って入ってくる場です。コロナ禍や息子たちとの同居が始まるのを機に5年ほどでクローズとなりましたが、人と人とが他愛もない語らいをする、穏やかであたたかい空気感が好きでした。
60歳になる前から趣味で始めた藁書にハマりました。藁書とは、藁を束ねた筆で描く創作書です。自分で自分を掘り下げ、自分に問いかけ、私は本当は何がしたいのか、余生をどう生きたいのか、自問自答は続きました。
流れに逆らわず、ありのままの自分でいたら、気がつけば藁書家になっていました。
藁の醸し出す豊かで複雑な線の導きにより、筆を動かせば作品になります。誰もがアーティストなのです!
まさに、今、今、今の自分に気づく瞬間、自分の中の楽しいを追求し、自分の好きをただ見つけていく。だめなんて何もない、全部まるの世界です!
空き家を一軒お借りして藁書の教室も始めました。
発酵ソムリエの友人が出張してくれて、発酵ランチも提供してくれます。人がいっぱい笑って遊べる場として開放しています。
起こりうること全てを面白がれる人と共に伝えていきたいなぁ
そう思い、始めた藁書講師。やっぱり私の使命は、私の好きを、同じ好きを感じる人へ伝えていくことかなと思うこの頃です。
また、「あしらいびと」としての活動も進行中。これは、私の好きな帯や花、木や器、布や書など、あるものとあるものを出合わせ演出するお仕事。ご依頼いただいたギャラリーやお宅へ出向いてさせていただいています。
事前の打ち合わせもなく、その時、その場での一期一会のイメージで作り上げる、私だけの唯一無二の作品&演出。作業中はとにかく夢中で、瞑想状態になっているかもの快感を味わっています。そんな、“あるもの”であしらうしつらえが大好きです。
歳を重ねるごとにいろんなもの、こと、感情を身につけ、歳を重ねるごとにいろんなもの、こと、感情を手放し、興味のないものには目も向かず、耳も貸さず、苦手なものには一切手も出さず、自分の心地よさを理解して、それを守っていきたい。
これからもこの御所で暮らし、何を手放し、何を持っておくか。それを見極める感性を失わず、風通しの良い余生を送りたいです。そして、この御所で人生の幕を閉じるでしょう、知らんけど。
体にも心にも、優しく穏やかな日々の変化に感謝して。
1958年生まれ。御所市に生まれ育ち、御所市在住。ロイヤルホテル(現リーガロイヤルホテル)でホテリエとして働いたのちECCジュニア講師となり、36年にわたって英語教育に携わる。現在は「藁書家・紫稲」や「あしらいびと」として活動中。